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薬物治療

 セラピーはBPDを克服するのに紛れもなく役立ちます。
 薬物も症状の治療に劇的な役割を果たし、セラピーを最大限に生かすために必要です。

 薬によって可能なのは、抑うつ,気分変動,解離,攻撃性,衝動性などの軽減です。
(残念ながら傷ついた心を治療できる薬はありません。)
 脳の神経伝達物質の機能を正常化します。

 同じ量の同じ薬剤が、様々な人に様々な形で影響を与えます。
 最善の結果をもたらす薬剤と、その量を見いだすために試行錯誤する期間があります。
 副作用を最小限に抑えながら、少ない服用量(用量設定)を目指します。

 この期間は楽しいものではなく、長期にわたる可能性があります。
 重要なのは、医師と密接に取り組み、症状を観察することです。
 最終的には、適切な薬物治療がBPDの人の人生を好転させます。

 セロトニンに影響するパキシルやプロザックなどは、効くまでに6週間かかることもあります。
 対照的に、アルプラゾラムのような抗不安薬はすぐに効果が現れます。

 薬剤の目的,用量,服用時間,副作用や薬剤を中止したときの副作用,ジェネリック薬についても、医師や薬剤師に質問しましょう。
 ネット上では、製薬会社はバラ色のイメージを描くかもしれないので、公平なサイトを見るようにしましょう。

 入院するときには、それ以前にあった症状ごとに薬を処方されていますが、それらの診断が正しいという確信がなければ、徐々に薬剤を取り除いていきます。
 

*「境界性パーソナリティ障害ファミリーガイド」ランディ・クリーガー
 〈監訳:遊佐安一郎〉(星和書店)より

文責・稲本

 


 
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○医者の薬物"療法"依存
 「魔法の薬」は患者の苦痛を一瞬緩和してくれるだけでなく、断崖絶壁に追い込まれた「医者の苦痛」も一瞬緩和してくれる
 でも真の問題解決は先送り......

 BPを診ている良い医者は孤軍奮闘しています。
 患者からも何とかしてほしいと問い詰められ、つい薬を出してしまいます。
 医者も患者と同じで、その場の苦痛から一時的に逃れるために処方をし、「薬物療法依存」になっているのです。

 独りで苦しむことが悲惨なのです。

○薬物「療法」依存の医者は孤立している
 援助希求能力が高い医者になれ

 チーム医療が必要です。
 一人の医者が背負い込むのではなく、各分野の専門家に役割分担することで、効果的な治療ができます。
 数は力。


 患者にとってもグループ療法は、同性の友だちやモデルになる人ができていいのです。
(異性の友だちはセックスで繋がっている)

 本人の行為を叱責するのではなく、回数を減らす方法を一緒に考えましょう。
 やらない約束はしない。約束をしても実行できないから、約束の効力がなくなります。
 「こうしなさい」ではなく、「私はこうしてほしい」とIメッセージで伝えましょう。
 望ましくないことをした時に罰を与えることと、望ましいことをした時に褒めること、どちらがいいと思いますか? 


○BPDの新しい理解と援助の仕方
 以前BPDは治療対象でなく、限界設定の対象でしたが、治療の対象とします。
 治療者との接触に限界設定をしていましたが、治療者とのコンタクトを増やした方が問題行動が少なくなります。
 "癖がつく"(治療者に依存する)というのは間違いで、相談できる環境を作ったほうがいいのです。
 援助希求ができるようにします。

〔*松本俊彦先生講演より〕

(以上)

文責・稲本
 

 
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○認知行動療法的ワークブックとマニュアルにもとづく依存症治療プログラム
 「SMARPP」
(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program)

 週1回の介入
・集団認知行動療法
・動機付け面接
・薬物使用モニタリング
・随伴性マネジメント
・積極的介入
・個人面接(再発分析)

○道徳教育は逆効果

 薬物依存している人に道徳教育を行なうと、その人を不道徳だと決めつけていることになります。
 学校などに偉い先生を呼んで、「命の大切さ」や「生まれてよかった」という教育をしても、依存症の子供たちは「生まれなきゃよかった」と言われ続けてきてきたのです。

 薬物の恐さをいくら教えても、彼らはそんなことは百も承知しています。
 恐さではなく、やめ方を教えてほしいのです。

○「こころの痛み」を生き延びるための「鎮痛薬」
 「故意に自分の健康を害する」症候群=アディクション

 自傷行為によって心の苦しみがその時だけ治まります。
 高校生の中で、ODしたことがあるのは4%,リスカしたことがあるのは10%です。

○最大の「自分を大切にしないこと」は、悩みを「相談しない」ことです

 患者は「援助希求能力」が欠けている人です。
 うまく助けを求めることができず、独りで苦しみ、間違った対処方法をしてしまいます。
 その行為の良し悪しではなく、何があったのかを聞いてあげることが大切です。

〔*松本俊彦先生講演より〕

(次の記事に続く)

文責・稲本
 

 
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○処方薬依存の患者側の要因

・自傷,過量服薬,過食,暴力などの衝動行為の存在
 薬を飲むと一時的に楽になるためです。

・他の物質依存,パーソナリティ障害が存在

・現実的苦痛の緩和ではなく、感情的苦痛の緩和を望む
 苦痛緩和のためにデパスを飲んでも、元の苦しみの原因は変わらず、薬では解決できません。

・生活歴における直接・間接的な暴力暴露経験
 暴力が刷り込まれてしまい、切羽詰まったときに暴力を起こしてしまう

・他者に対する不信感と援助希求に対する絶望感

・無力感を否定するための自己コントロールへの固執

○困難で複雑な痛みほど、一時的な緩和で「夢を見た」あとの痛みの増強はハンパない

 薬によって一度楽になると、ドツボにはまってしまいます。
 即効性の薬は依存しやすくなります。
 医師はゆっくり効く薬を出すべきです。

○人を依存症にさせるのは「快感」ではなく、「苦痛の緩和」
 依存症対策とは、やめられない「モノ」や止まらない「コト」をやめさせる支援だけではありません。
 痛みを抱えた「ヒト」の支援です。
(参考文献:「人はなぜ依存症になるのか」星和書店)

〔*松本俊彦先生講演より〕

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文責・稲本
 

 
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○依存症を作る医師の処方行動

 クリニックに通うと依存症が増えると思えるのは、医師の以下のような行動があります。

・「フライング処方」の繰り返し
 例えば薬を4週分出し、次に患者が2週間後に受診して、また4週分出してしまうということです。

・短時間作用型・人気のベンゾジアゼピン系を処方
 ハルシオンやベゲタミンなどがあります。

・診察なしの処方(薬のみ外来)
 診察をしないで薬だけ処方するのは医師法違反です。
 保険料の不正請求にもなります。

・患者のアルコール・市販薬乱用歴を看過

○薬物依存患者の乱用向精神薬人気ランキング

 1位はーロヒプノール,サイレースなど、フルニトラゼパムを成分とする睡眠導入剤です。
 それに続くのは、ハルシオンなどの成分トリアゾラム,デパスなどのエチゾラム,マイスリーなどのゾルピデムです。

 デパスは頭痛や腰痛にも出せるので、重複処方されやすく、やめづらいといいます。

○ベンゾジアピン類処方を控えるべき患者
(結局、生きざまの詳細な把握が必要)

・自傷,過量服薬,爆発性暴力などの衝動行為歴がある患者
・他の物質使用障害,パーソナリティ障害の存在する患者
・大食症質問票高得点(潜在する摂食障害)の患者
・市販鎮痛薬乱用(頭痛,潜在する解離性障害)の患者
・現実的解決ではなく、感情的苦痛の緩和だけを望む患者
・直接・間接的な暴力暴露の経験がある患者

〔*松本俊彦先生講演より〕

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文責・稲本
 

 
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○リストカットと過量服薬の動機

 辛い感情から解放されたい場合、リストカットするかODするかは、ともに73%です。
 自分を罰したい場合は、リストカット45%、OD39%。
 死にたい場合は、リストカット40%、OD67%となっています。

 自殺の意図がない場合、リストカットは途中でやめられますが、ODはやめてもそのあとで効いてきてしまいます。

○過量服薬による鎮痛は、リストカットよりもエスカレートが速い

 リストカットした人は、95%がそのことを初めは報告しないため、見つかりにくいですが、
 ODした人は報告しなくても、起きてこないから家族が気付いたりするので、見つかりやすくなります。
 家族が心配してくれるため、ODはエスカレートしやすくなります。

 それを防ぐには、家族は感情的に反応するのではなく、医学的に反応することです(適切な処置など)。
 感情的に反応すると、行動は強化されてしまいます。

 その他にエスカレートする理由としては、心の痛みに対する鎮痛効果が高い,死なない服薬量が予測しにくい,酩酊によるものがあります。

○故意の自傷が増えている
 これって「精神科行こうキャンペーン」のせい? 

 自殺者数は平成10年から横ばいです。
 ところが、自傷行為による救急車での搬送人数は、この前後から急に増えています。
 精神科クリニックの数も同じように増えています。
 それは、処方薬が増えているとも言えます。
 その結果、OD,救急搬送が増えている? 

 精神科受診が、自殺手段へのアクセスを高めてしまっているのではないか? 
 患者の苦痛を緩和するための医療が、依存症という病気を作り出していないか? 

〔*松本俊彦先生講演より〕

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文責・稲本
 

 
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○自殺以外の意図によるODもある
(3次救急救命センターにおける過量服薬患者の調査から)

 ODの理由で、自殺企図と並んで多いのは、不快感情の軽減です。
 いま抱えている苦痛から何とか逃れたいためです。

 しかし苦痛の軽減に一番いいのは、ODではなく、信頼できる人に相談することなのです。

 ODをするその他の理由には、以下のものがありますが、どれも多くはありません。
 眠るため,自分を罰するため,他者を罰するため(思い知らせるため),助けを求めるため,自分の辛さを人に伝えるため,人の愛情を確認するため。

○「死にたい」のではなく「解決したい」

 自殺意図があってODする人は、40%がその前に「予告」をします。
 しかし自殺意図がない場合は、予告する人はいません。
 死にたい人は本当に死にたいのではなく、困難を解決したくて迷っているので、誰かに伝えるのです。

 ただ、相談されて答えてあげても拒否します。
 相手を苛つかせてしまうため、そのうちサポートが少なくなり、余計に自殺リスクが高くなってしまいます。

 また、ODをしたあとのことを見ると、自殺意図がある場合もない場合も、3~4割がそれを人に「報告」しています。
 そのほうが治療者や周りの人はサポートしやすくなるので、報告するのはいいことです。

○自殺意図の有無で、過量服薬後の医学的重症度は変わらない

 自殺の意図がなくても、飲んでいるうちに酩酊してきて、飛び降りたり首を吊ったりし、大怪我を負ってしまうこともあります。
 また、何回もODしていると、家族は「いい加減にしろ」という気持ちになってきついことを言ってしまい、よくない結果に繋がることもあるでしょう。

〔*松本俊彦先生講演より〕

(次の記事に続く)

文責・稲本
 

 
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○処方薬を依存するのは、「快感」ではなく、「苦痛の緩和」という報酬効果のため

 従来の覚醒剤などの薬物乱用の理由は、誘われて,刺激を求めて,好奇心・興味から,など、快感を求めてのものでした。

 それに対して、現在の処方薬による乱用は、患者が不安や不眠を軽減することが大半の理由です。
 つまり新たな快楽のためではなく、今の苦しみから逃れるのが目的なのです。

○気分障害などの併存が多い

 覚醒剤患者と、処方薬の乱用・依存患者が併発している障害を比べてみます。
 前者では、統合失調症,気分(感情)障害,パーソナリティ障害・行動障害が見られます。
 後者では、気分障害,うつ・パニック障害・摂食障害などが非常に多くなっています。
 患者の84%が、その治療過程で乱用・依存が問題化しているのです。

○処方薬の「売人」はお医者さん
(処方薬患者の84%が不眠・不安の治療過程で発症)

 依存患者の薬の入手元を調べると、覚醒剤では大半が不明、次に密売人で、つまりアンダーグランドです。
 一方睡眠薬・抗不安薬は、精神科医がトップ、続いて身体科医師です。
 医者は、「白衣を着た売人」と言われます。

○処方薬乱用者は自傷・自殺が多い

 覚醒剤患者より処方薬患者は、自傷・自殺やODが圧倒的に多く見られます。

 なお、依存は誰でもするものですが、健康な依存は色々なものにバランスを取って依存します。
 病的なのは一点集中で、ひとつのことだけに依存してしまうことです。
 人に依存する場合も、健全なのは何人かの人に頼ることですが、特定の人のみに依存すると、依存されたほうも倒れてしまいます。

〔*松本俊彦先生講演より〕

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文責・稲本
 

 
 10月20日「BPD家族会」定例会で、松本俊彦先生〔*〕の講演「向精神薬乱用と適量服薬の理解と対応」が行なわれました。
 その内容を掲載していきます。


〔*:「BPD家族会」顧問
  独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所
  自殺予防総合対策センター副センター長
  薬物依存研究部 診断治療開発研究室長〕

                  *

○わが国における乱用薬物の動向
(全国精神医療施設の薬物関連精神障害の実態調査(1996~2012年)より)

 戦時中ヒロポンと呼ばれていた覚醒剤は、戦後民間に広まりました。
 覚醒剤取締法が制定された結果、地下に潜ってヤクザの"しのぎ"となりました。
 注射から吸引に変わって、接種しやすくなったといいます。
 覚醒剤は各種薬物のなかで使用量がだんとつにトップです。

 2位のシンナーの使用量は徐々に減っており、薬物にも"流行り"があるようです。

 シンナーに変わって増えているのが、3位の睡眠薬・抗不安薬で、2004年にシンナーと順位が逆転しています。
 睡眠薬・抗不安薬は、ハルシオンなどベンゾジアゼピン系の薬で、これは不法に入手されたものではなく、医療施設で患者に治療として処方されたものです。

 患者は処方された薬を一度に大量服用したりし、乱用・依存になります。
 これが、現在の薬物乱用の問題点です。

 脱法ドラッグも増えていますが、これは覚醒剤より危ないと言われます。
 脱法ドラッグは法の規制を逃れるために次々と化学構造を変え、そのため危険になっているのです。

○いまや捕まらない薬物が問題

 1年以内に乱用が見られた薬物関連障害患者の薬物の内訳は、覚醒剤,脱法ドラッグ,睡眠薬・抗不安薬がほぼ4分の1ずつを占めています。
 このうち、脱法ドラッグと睡眠薬・抗不安薬は違法ではなく、捕まりません。

〔*松本俊彦先生講演より〕

(次の記事に続く)

文責・稲本
 

衝動的な行動症状に対する薬物療法

 
 BPDの衝動的な行動症状には、自他や物に対する衝動的な攻撃が含まれ、自殺関連行動の主な危険要因です。
 浪費,むちゃ食い,薬物使用,性行為に現れることもあります。
 軽はずみな判断をするといった認知的側面に影響があるかもしれません。

〈SSRI抗うつ薬〉
 衝動的行動に対する治療の第一選択となる薬です。
 効果が不充分な場合には、MAOI抗うつ薬,気分調整薬が検討されます。

 暴力など性急な効果が必要な場合には、期限を限って低用量の抗精神病薬の筋肉注射が必要かもしれません。

〈気分調整薬〉
 炭酸リチウムは投与量が多すぎると重大な副作用を引き起こす恐れがあり、過量服用が致命的となりかねません。
 定期的な血液検査で血中濃度をモニターする必要があります。

 カルバマゼピンは感情統制不全と行動面の症状の両方に用いられる抗けいれん薬です。
 ディバルプレックスは、不安定な気分と攻撃的行動に対して有効です。
 共に定期的な血液検査が必要です。

○薬物療法の継続期間
 認知-知覚的症状に対する低用量の抗精神病薬は、短期的使用(数週間~数ヶ月)が現実的でしょう。
 感情統制不全と衝動的行動の治療の場合、患者がストレスにうまく対処できるようになるまで、薬を続ける必要があります。

○結び
 BPDの薬物療法は試みの段階です。
 混乱した対人関係を治療するものではありませんが、精神療法の効果を増す治療法です。

*「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」林直樹訳(星和書店)より

文責・稲本
 

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